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講座レポート 2023/9/11 No.2023-10 村上春樹にとって、ノーベル文学賞への路はなぜかくも険しいのか


講座日  令和5年9月11日 13:30~15:30                              

講師   助川幸逸郎 (東海大学教授)


毎年ノーベル文学賞発表の時期(10月)になると必ず騒がれるのが村上春樹が受賞するのかどうかという事である。助川講師の専門の一つである村上春樹などの近現代文学の考察から本件の解説を受けた。過去に川端康成および大江健三郎がノーベル文学賞を受賞しており、川端康成はその「日本的美学」がうけたせいで、大江健三郎は「日本人が西洋文学の最先端を消化したこと」で評価されたのである。ノーベル文学賞の理念は、「理想主義的傾向のもっとも注目すべき文学作品の著者に贈る」とあり「理想主義的傾向」は、人間と自然、国家や民族、歴史などに対する洞察や想像力、精神性の深さなどと考えられる。しかるにハルキ文学は「欧米に憧れるアジア庶民の本音」に訴えるぶん、インテリ層からは評価されない面。 日本には未熟なものを愛でる文化、伝統があり、日本のアニメの美少女みたいなキャラが春樹作品にしばしば登場して、未成年に対する性愛の嫌悪が欧米であること等があるが、春樹文学は独自の書式で多くの読者を獲得している。近年の春樹作品は日本語版と同時に外国語版がでることが決まっていて、いわば日本車と同様、世界に向けられている。ノーベル文学賞には興味が無いのかも知れない。最後に春樹の文学的欲望の根底にあるのは「終わらない直子探し」(ノルウェーの森に登場する友人の恋人、自殺)との助川講師の話だった。深い、興味ある講座であった。


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